安楽死を考える・神々の夕映え(渡辺淳一著)より
さて、植物人間状態になってしまった婦人についてのお話の続きです。途中経過に関することは多々ありますが、結末の部分についてお話をしたいと思います。
ある朝医師の自宅に婦長から電話がかかってきます。朝方植物人間状態にある婦人が亡くなったという知らせが入ってきます。婦長は、「死んでいるのが分かったのは今朝の7時ごろでした。」原因を聞くと「それが少しおかしいのです。今朝、早出の看護婦が朝の検温に行くと、千代さんは布団を目深にかぶって寝ていたというのです。それで、気にせず布団を除けてみると、すでに顔は黒ずんでいて死んでいたのです。」といいます。医師は、窒息死だろうか、あるいは明方脳内出血でも起こして死亡したのだろうか。いずれにしても側に誰かがいれば気づくはずである。付添い人の夫はどうしていたのかと医師が婦長に尋ねると「それが、看護婦が検温に行ったときにはいなかったらしいのです。婦人が死んでいると騒ぎになって、十分くらい経ってからトイレに行ったといって出てきたんです。私もそのときはあったのですが、下痢でもしたように蒼い顔をして、婦人のことを聞くと怯えたように首を振って、死んでいるなんて知らなかったというのです。でも、そんなことってあるでしょうか。横について気がつかなかったなんて・・・・・・」どんな静かな死も、その前後に多少悶えたり、苦しんだりすることがある。そうはっきりしなくても、それに似たなんらかの異常はあるはずだった。付き添いなら当然それに気がつくはずだし、それに気がつかないような付添いならいなくても同じだった。
婦長は急に声を低め、婦人のここにおかしな痕があるのです、と首の中ほどに指を当てた。
つまり、それがどういう意味であったのか。婦人の付き添いの夫に当然に疑いがかかることになります。続きは、また次回にお話いたします。
(神々の夕映え 渡辺淳一著 講談社文庫より)











