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安楽死を考える・神々の夕映え(渡辺淳一著)より

 医師は、生まれつき骨がもろくて折れやすい病気で、出産のときの子宮内の圧力だけでも簡単に折れてしまうような障害をもった子供の手術を請け負うことになります。この病気は、骨は折れやすいがそれだけにまたつきやすい。それに幼児には適応力があるから外形の変化に応じて、軟部組織の内臓や筋肉も適合できる。そういったことから折れたあと異常な形でついたままに生き延びることになる。その医師がはじめて診たとき、少年は10ヶ所の骨折があった。前に診た医師は3歳になれば手術は可能といったようであったが、実際にはそれでも少し早いように思われた。だが、少年の母親は熱心に手術を希望していた。どこからでもいい、とにかく一ヶ所でもいいから治して少しでも外形をよくしたいと希望した。医師は、少年の母に手術の内容を説明し、いまより良くなるが、それでも治るわけでもなく、何年か後にさらに手術が必要になるだろうといった。この種の病気は曲がっている骨だけを治してもなかなか良くならない。骨に付着している筋肉や神経の問題もあるし、骨そのものの脆弱な性質がおさまらない限り、根本的には治らない。それにいまひとつ、手術には常に生命の危険があった。普通3歳にでもなれば、一般の骨折の手術には耐えられるが、少年は肋骨が折れているため、肺活量は正常の3分の2にも達しない。それに奇形のため内臓も弱っていて体重は10,5キロしかなかった。できたら2,3年あとのほうが好ましかったが、母親は3年も経っては学齢期になるし、このままでは手足が曲がったまま、おかしな歩き方や、もののもち方にも慣れてしまうのでいまのうちにやって欲しいと譲らなかった。だが、手術が危険なことも事実であった。医師はそのことを何度も言ったが、母親は「お願いします」というだけであきらめる気配はなかった。

 つまり、母親の本心には危険な手術を執拗に求めたことの意味には子供の死を願う気持ちがあったのではないかとの思いにかられるのである。

 重度障害者の将来を案じて死を願うのであろうか?それがその子供の本人にとっての楽な道といえるのでしょうか?

 これも生と死の選択をゆだねられる医師の側から安楽死を考えさせられる問題であるといえるでしょう。

 (神々の夕映え  渡辺淳一著 講談社文庫より)

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